大阪高等裁判所 平成元年(ラ)462号 決定 1989年12月15日
主文
原決定を取り消す。
本件を和歌山地方裁判所田辺支部に差し戻す。
理由
一 本件抗告の趣旨及び理由は別紙記載のとおりである。
二 当裁判所の判断
1 記録によれば、原決定書の理由三1の(一)ないし(三)記載の事実のほか、相手方(被申請人)会社が、その定款において、取締役会の承諾なくして会社の株式を譲渡することができない旨を定めていることを認めることができる。
しかして、原決定が、「抗告人(申請人)は相手方(被申請人)会社の株主であるが取締役でもあるところ、取締役会の構成員として取締役会における取締役の職務執行の監督に関与し、これに必要な範囲において業務財産の状況を調査しうる取締役たる抗告人に、検査役選任請求権を認める必要はない。」との理由により、抗告人の本件検査役選任申請を不適法として却下したことは記録上明らかである。
2 しかしながら、商法二九四条所定の検査役選任請求権を有する株主の範囲を右のように制限的に解さなければならない合理的な理由はこれを見出しがたく、取締役である株主においても、株主として右検査役選任請求権を有するものと解するのが相当である。けだし、なるほど一般的あるいは理論的には、原決定説示のように、取締役である株主は、取締役の職務執行の監督権限を有する取締役会の構成員としての立場から、必要な範囲において会社の業務財産の状況を調査することができるものとしても、実際上、ことに小規模で閉鎖的な会社(右1に認定のところからして、相手方会社も、この類型に属する会社であるということができる。)においては、取締役の地位にある者であっても会社の業務財産の状況を調査しこれを把握することができない事態を生ずることがあることはこれを否定しがたいところであり、そのような場合において、同条所定の検査役選任請求の客観的要件に該当する事実が認められるときであってもなお、株主が取締役でもあることのゆえをもって、当然にそのような株主は検査役選任請求適格を有しないと解さなければならない合理的な理由を見出すことは到底できないからである。
3 よって、右と異なる見解の下に本件検査役選任申請を不適法として却下した原決定は不当であるからこれを取り消し、本件を原裁判所に差し戻すこととして、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 栗山 忍 裁判官 川勝隆之 裁判官 中村隆次)